先週の金曜日にトヨタの平成22年度上期の決算が発表されました。翌日の新聞では営業利益が前年比何倍になったとか、通期でも利益を上方修正するとか、景気のよいニュースが載っていました。新聞の見出しを見る限り、トヨタは完全に復活したかのような間違った印象を与えています。
トヨタの中にはこの数字に満足している人も大勢いるようですが、私は正直がっかりしました。トヨタらしくない数字だからです。トヨタといえば「三河の田舎大名」と言われたと当時から、高収益で知られた会社です。トヨタの利益は二位以下のメーカーが束になっても叶わない金額だったはずです。しかし今回発表された営業利益は、ホンダどころか日産にも及ばない数字なのです。日産は約10年前に事実上経営が破綻し、ルノーの傘下に入った会社です。トヨタはその日産にすら追い抜かれてしまったのです。
原因は経営陣のみならず社員にも危機感がないことです。歴代の経営トップには、「トヨタが日本経済を支えている」という強烈な自負心がありました。しかし今のトップからは、そういう意識が伝わって来ません。最近、社長の豊田章男さんがテレビに出たり、新聞のインタビューにも応じたりしていますが、言っていることといえば、「見るだけでワクワクするクルマ」とか「楽しいクルマづくり」といった類の話ばかりです。この種の話はしょせん商品企画担当役員の仕事です。
経営トップの仕事は、24時間自分の会社をどんな会社にするかを考えることです。今のトヨタのトップからはその手の話はいっこうに聞こえてきません。将来に対する青写真がなければ、株価が低迷するのも当然です。トヨタとホンダの株価は3000円前後で拮抗しています。しかしよく考えてください。ホンダは2007年に株式をニ分割しているので、実際の株価はトヨタの倍ということになります。ホンダの株価は年初来の高値まであと400円、トヨタは1200円です。トヨタは年初来の高値を更新するというより、年初来の安値を更新する可能性が高いのが現実です。勢いは間違いなくホンダにあります。
株価を見る限り、トヨタは単に図体だけが大きな会社になってしまったのでしょうか。トヨタを日本一の高収益会社に育て上げた石田泰三さん、豊田英二さん、奥田碩さんなど歴代社長の嘆き節が聞こえるような気がします。
「会社はトップの矩を超えられない」というのが長年新聞記者として企業取材にあたってきた私の結論です。創業家出身の「ゆるキャラ社長」にトヨタの再生を託すのは、無理があるのかも知れません。はっきりしているのは、トヨタが蘇みがえらない限り、日本経済は停滞から脱却で来ないことです。す。