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ゆるキャラ社長

 4日付の朝日新聞面にトヨタの豊田章男社長の単独インタビューが掲載されていました。経済面の3分の2ほど費やしていましたが、予想通り、新鮮味はゼロでした。言っていることが依然として抽象的で、具体性がありません。インタビュ記事をいくら読んでも、章男社長が、トヨタをどういう会社にするかというビジョンが全く伝わってきません。

 いってみれば「ゆるキャラ」なのです。提唱者のみうらじゅん氏によると、ゆるキャラには、3つの条件があるそうです。一つは、郷土愛に満ち溢れた強いメッセージ性があること。二つ目が、立ち振る舞いが不安定で、ユニークであること。そして最後が、愛すべき「ゆるさ」を持ち合わせていることです 章男さんはこの3つの条件を備えているので、さしずめ「ゆるキャラ社長」ということになります。ゆるキャラ社長をぬいぐるみにすれば「モリゾウ」になるのでしょう。

 しかしトヨタの社長が「ゆるキャラ」では困るのです。章男さんが社長になってからのトヨタの経営は「ゆるい」「たるい」と言われています。ようするに緊張感がないのです。

 私はトヨタの歴史の半分以上見てきましたが、これまで「厳しい」と言われても、「ゆるい、たるい」と後ろ指を差されたことはありませんでした。

 章男さんは事あるごとに「原点回帰」という言葉を使います。朝日のインタビューの中でも「車づくりを通じて社会に貢献すること」と言っています。しかしこんな理屈、小学校の社会の時間で教えています。日産もホンダも、そしてソニーもパナソニックも自社の製品を通じて社会に貢献するため創業したのです。

 問題はその後です。創業者の豊田喜一郎さんは、戦後の混乱期に、「挙母に自動車のユートピアを作る」と宣言して、車づくりに邁進しました。しかし結果的にはこれが命取りになり、トヨタは倒産の瀬戸際まで追い込まれ、喜一郎さんは退陣を余儀なくされました。

 人災です。喜一郎さんは守りに撤しなければならない時、攻めの経営に走ったのです。いつの時代でも刻々と変化する時局を正確にとらえてとらえておかなければ、生き馬の目を抜く世界の自動車業界で生き残れないでしょう。

 今トヨタのトップがしなければならないのは、いま世界の自動車業界の中で、トヨタがどんな立場にあるかを見きわめ、そのうえで社内外に長期ビジョンを示すことです。にもかかわらず社長の口から何も語られないのでは、株価がホンダに抜かれるのはむべなるかなです。「あつものに懲りてナマスを吹く」経営で、しかもトップに「ゆるキャラ社長」を頂いては、株価の上昇は夢のまた夢でしかありません。

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