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風説の流布による風評被害

 東日本大震災から間もなく2週間を迎えます。残念なことに、日がたつ経つにつれ風評被害が目立ち始めています。その最たるものは、東電福島第一原発事故です。東京の空にも放射性物質飛んでくるとの風評から、先週は東京でも自宅待機に踏み切った会社があったようです。電車が動かなくなり、出社に支障をきたしたため、自宅待機に踏み切ったなら分かりますが、放射性物質が飛んでくる恐れがあるから自宅待機というのは理解できません。自宅におれば放射性物質の被害に合わないというのであれば話は別ですが、決してそんなことはありません。

 私の事務所がある表参道は平日でも外人客で溢れ返っていますが、先週半ば辺りからめっきり減ってしまいました。原発による放射性物質の被害を恐れ、観光客がキャンセルしたことに加え、米国が原発から80キロ離れるよう避難勧告を出したことが大きいようです。これを知った在日外国人が競って帰国したようです。3連休中に普段なら外国人であふれる表参道で、外国人は殆ど見当たりませんでした。スーパーブランドの店も臨時休業の看板を掲げています。

 ところが昨22日に開かれた東京証券取引所の取締役会で、唯一の外人の社外役員であるアメリカン・ファミリー生命保険の日本代表は、「米国は間違った判断をしてしまった」と陳謝したそうです。真偽のほどは分かりませんが、米国が退避の範囲を80キロとしたのは、福島第一に4機(ほかに休止中が2機)がありⅠ機の退避距離が20キロで、4機あるから80キロにしたというのです。米国がこうした避難命令を出したことで、いつの間にか外国人の間で、「「日本列島全体が放射性物質に侵されている」という風説が流布されたわけです。

 今日の午後に香港駐在の友人が、事務所に来ました。香港の飛行場では日本から来た便の乗客には、放射線量の測定を始めたそうです。香港では地震の起きた日には、日本製の食材を扱う店から日本の商品が瞬く間に店頭から消えたそうです。週明けから元に戻ったようですが、今度は誰も買わないそうです。理由は日本の食材は、放射性物質に汚染されているのではないかというのが原因です。回転ずしも開店休業の状態だそうです。いま香港のホテルには日本人がつめかけているどうです。こうした姿を見た香港人は、「日本は危ない」と思い込んでも不思議ではありません。

 風評被害は産業界で深刻な問題になっています。東北地方にある自動車関連産業は、破壊された工場が再開するまで、まだ時間がかかるでしょう。しかし80切キロの圏内にある自動車部品会社は深刻です。工場は被害もなく、翌日から工場は稼働していますが、単に工場が原発から80キロ圏内にあるというだけで海外メーカーからキャンセルされたそうです。発注先の外国のメーカーは、鉄の塊である自動車部品が放射物質に人汚染されているとでも思ったのでしょう。今日の日経新聞にベタ記事で、「台湾が、日本から輸入する食品だけでなく、玩具や家電など工業製品912品目について放射線量の検査を始めた」と伝えています。 さらに日本からの郵便物も検査すべきだと主張も出ていると書いています。ここまで来るとマンガですが、台湾当局は真剣にそう思っているのでしょう。

 一昨日から福島、茨城の葉物野菜が汚染されているということで出荷停止になりました。野菜で止まっているうちはまだましですが、私が残念に思っているのは、食材のみならず工業製品まで日本の製品は優れている「日本ブランドに対する神話」が棄損されたことです。一度損なわれた神話を復活させるのは容易ではありません。

 かえすがえす残念に思うのは、福島原発の3号機が最初に水素爆発を起こした時点で、東電社の長が廃炉を決断、直ちに海水の注入に踏み切っておれば、事態はもっと違ったはずです。決断をためらっているうちに、次々と他の原子炉も水素爆発を起こしてしまいました。新聞、テレビでは伝えてませんが、現在行っている電源の復旧作業は、原子力発電の再稼働を目指したものではなく、廃炉に向けた作業です。炉心や使用済燃料棒貯蔵プールを冷やして、安定した状態にする冷温停止に成功するのを祈るのみです。

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