昨日、中国大使に任命された前伊藤忠会長の丹羽宇一郎さんの壮行会が、都内のホテルで開かれました。出席者は丹羽さんと個人的に付き合っていた人たちで、政治家や役人はいませんでした。
私が丹羽さんと知り合ったのは、彼がニューヨーク駐在を終え帰国してからからですから、かれこれ30年近くなります。当時はまだ課長だはずです。丹羽さんの生活信条は、「清く、正しく、美しく」です。社長になってからも電車で通勤を通しました。自宅が同じ田園都市沿線ということもあり、朝の通車で一緒になる機会もままありました。また私と元通産省事務次官の棚橋が幹事をしている月1回の朝の勉強会にも入ってもらい、忌憚のない意見を述べてもらっています。
壮行会のあいさつの中で、丹羽さんは「政府から打診されたのは今年4月」と裏話を披しました。ただし相手国のアグレマンを取らなければならないので、官邸から「それまでは絶対に誰にも話さないでください」と釘を刺されたそうです。律義な丹羽さんは、誰にも話さず、奥様が知ったのは6月中旬過ぎに日本経済新聞がスクープした記事をも見て知ったと会場を沸かせていました。
一般的なトップ人事の報道について、5月の勉強会で話題になったことがあります。その時、丹羽さんは「トップ人事は本人が話さない限り、新聞は書けないでしょう」と自信ありげに話していました。元新聞記者の私としては、「人事は必ず抜けます。たとえ本人が話さなくとも、その人事に最も影響力のある人が確認してくれれば、紙面化できます」とむきになって反論したものです。
当時、丹羽さんは次期NHK会長や経営委員長に就任するという噂がありました。私が現役の記者なら必死になって取材したでしょうが、今や元新聞記者の身分。この時はNHKから打診があったのかも知れないと漠然と考えていましたが、まさか中国大使とは予想もしてませんでした。今にしてみれば、当時の丹羽さんは夜もおちおち眠れなかったのかもしれません。
今回の人事は外務省のチャイナースクールや同業他社から前途を危ぶむ人がいるのも事実ですが、当の丹羽さんは「誰かがやらなければならない仕事。新風を吹き込みたい」とわれわれ関せずと、ひょうひょうとしています。中国は今や日本を抜いて世界第二の経済大国。日本との関係はますます重要になるでしょう。それだけ丹羽さんの責任は重くなるでしょうが、私は丹羽さんはその大役を果たせると信じています。