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現地・現物、そして現実

 今日の日本経済新聞にトヨタの豊田章男社長のインタビューが載っていました。マスコミ嫌いの章男社長が活字媒体の個別インタビューに応じるのは初めてです。しかし新聞を読んでがっかりしました。これまで繰り返してきた域を全く出なかったからです。すべて抽象的で新鮮味はゼロでした。

 なぜトヨタの将来像を語れないのか。それは”現実”が抜けているからです。章男社長は就任以来、現地・現物を呪文のように唱えています。現地・現物はしょせんモノづくりの心構えの問題です。私が現役の新聞記者時代、ホンダの本田宗一郎さんが語ってくれたことがあります。

「モノづくり会社としてのホンダの原点は、現地・現物主義だとを言ったら、副社長(藤沢武夫さん)からこう言われました。”本田さん、それは違います。単に現地・現物主義なら趣味の域を出ません。事業には現地、現物に現実を加えなかったら成功しません”。ホンダは藤沢さんの考えを取り入れで現地・現物に現実を加え三現主義としたのです」

 この話をトヨタの大番頭だった花井正八に話したところ、「藤沢さんは経営の何たるかを心得ている。トヨタの場合、これに現金を加えた四現主義だな」と笑って言ったことを、今でも覚えています。それではなぜ花井さんが現金にこだわったのか。

「わしが現金にこだわるのは、財テクのためではないんです。万が一に備えてのためです。トヨタは上場している以上、株を買い占められても少しもおかしくない。それに対抗するには、余裕資金をすぐに現金化できるようにしておかなければならない。だから短期でしかまわさないのです。余裕資金が2兆円もあれば誰が社長になってもトヨタの財務基盤はびくともしない」

 世界の自動車産業は流動化しており、トヨタ包囲網は着々と進んでいます。今の株価からすれば、中国マネーやオイルマネーがトヨタ株の買い占めに入ったらとよたといえどもひとたまりもありません。章男社長はインタビューの中で、「台数より品質 徹底」とまだノンビリしたことを言っいます。世界の自動車産業の潮流に背を向けていたら、トヨタは間違いなく時代に取り残されてしまうでしょう。

 日経のインタビューは一面のほかに企業総合面にも掲載されているが、皮肉にも企業総合面の脇にルノーとダイムラーの提携交渉に日産も参加する憶測記事が載っています。主見出しは「日産、規模の追求狙う」とありました。自動車メーカーの成長と利益の源泉は、何といっても規模の拡大にあります。これを否定したら自動車メーカーの経営は成り立たちません。 章男社長はインタビューの中でこうも言っています。

 「品質を高めればコストが下がるというのが本質論だ。両者を別々に考えてはだめだ。安全、品質、量、コストの段階を一つ一つ上がっていくのではなく、全部を達成しなければならない」

 こうなるともはや分裂症としか言いようがない。 章男社長の頭の中には現実がないから、自分の言っている発言に整合性がないのでしょう。

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