先週、週刊文春に寄稿した「トヨタ“世襲礼賛”報道に異議あり」は、予想通り多くの反響がありました。
ある中小企業の社長さんからは「自分の興した会社を息子に譲ってなぜ悪い」といわれました。確かにそのとおりです。自分の起こした会社を、血を分けた子供に譲リたいのは人情です。ただし株式を公開して資本市場から資金を調達した時点で、その会社は社会の公器になるのです。
最近、気がついたのは、創業者ガ社会の公器になっている例があることです。パナソニックの創業者の松下幸之助さんです。松下さんは亡くなってから20年が過ぎましたが、今なおビジネスマンの間で「経営の神様」として尊敬されています。その一因は松下さんが作った「PHP研究所」と多くの国会議員を輩出している「松下政経塾」にあるのは言うまでもありません。 この二つの組織のお陰でパナソニックのブランドは輝いています。
対照的なのがホンダです。創業者の本田宗一郎さんは、松下さんの後を追うように91年に亡くなりました。一時はビジネスマンの人気経営者と言えば松下さんと本田さんが覇を競っていましたが、いつしか本田さんの人気は低迷しています。ましてや私が密かに”史上最強の経営者”として畏敬している本田さんの盟友、藤沢武夫さんの存在はホンダんの社員にすら忘れ去られています。
ホンダは3年前に本田さんの生誕100年の時にささやかなイベントを最後に、意識的に本田さんと藤沢さんの、いわば二人の創業者の存在を封印してきたきらいがあります。これではマスコミも取り上げようがありません。
パナソニックの顔は今なお松下さんですが、ホンダはいつの間にか、経営者の顔見えない会社になってしまったようです。危惧されるのは無から有を生み出した創業者のDNAが消えていくことです。