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週刊誌のタイトル

 週刊誌でいつも感心するのが、タイトルです。これを付けるのが編集長の仕事です。筆者は仮のタイトルを提案することができても、それを通す権限はありません。

 私も「日経ビジネス」発行人をやっていた当時、タイトルはすべて編集長に任せてありました。同じ週刊紙とはいえ日経ビジネスは90%以上が直接販売の年間契約読者であるため、号あたりの販売部数に一喜一優することもなく、より正確に記事に合ったタイトルをつけがちです。結果的にはどうしても固いものになつてしまいます。 しかし一般の週刊誌はそうはいきません。羊頭狗肉と冷やかされようが、読者は新聞広告や電車の吊るしで見たタイトルで買うので、付けるほうも必死でしょう。

 縁があり4月2日号と4月9日号に連続して、週刊文春に寄稿しました。2日号は同誌の創刊50周年記念号と銘打ったもので、特集は「私はそこにいた 重大事件の目撃者」でした。編集部からの注文は、「発売日がちょうど日産とルノーの提携10周年に当たるので、その舞台裏を描いてほしい」。

 両社の提携は私も関与していたので、裏の裏まで知り尽くしています。私が渡した原稿に編集長が付けたタイトルは「ルノーかフォードか?日産社長は確実なカネ選んだ」でした。経営の基本は「明後日(あさって)の夢よりも、明日の米」です。要は足もとがしっかりしていなければ、夢を語れないということです。原稿では最後に「日産は倒産するかどうかの瀬戸際にあります。従って不確実な明後日のカネ(フォード)より、あす確実に手に入るカネ(ルノー)を優先すべきです」とアドバイスした書いてあります。編集長はそこからとったのだと思います。

 9日号は15日発売の「トヨタ ストラテジー」の終章のエッセンスです。単行本では400字詰め原稿用紙でで30枚ほどありましたが、週刊誌では4ページに収録しなければなりません。大雑把に行って半分近く削らなければなりません。削るのは私の仕事です。何度も何度も読み直して、残ったのが世襲の問題です。トヨタの豊田家の世襲に関してマスコミは、さしたる批判もなく、礼賛しました。それに私は違和感を抱き、出だしで「マルデNHKの大河ドラマを見ているようだった。トヨタの社長交代のマスコミ報道である」と書いた。これから編集長は、「トヨタ、世襲礼賛報道に異議あり」と付けたわけです。

 トヨタは紛れもなく豊田家が創業した会社ですが、今や世界一の自動車メーカ^ーであり、日本を動かすほどの影響力を持った会社です。会社は社会の公器である以上、もっとも相応しい人を選ぶべきであろう。結果的に創業家の人が選ばれることもありえます。新聞はその辺のことについてまったく触れていない。だから「異議あり」のタイトルになったのです。

3月31日

 

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